2024年12月6日公開
最終更新日:2024年12月6日
キャリアアドバイザーの仕事を業務委託すると違法? 人材紹介には国の許可が必要
キャリアアドバイザーの仕事を業務委託するケースが増えているようです。しかし、人材紹介には国の許可が必要であり、やり方を間違えると違法となってしまいます。ではなぜ、キャリアアドバイザーの業務委託が増加しているのでしょうか。
この記事では、キャリアアドバイザーの業務委託が違法となる理由の解説とともに、委託するケースが増えている背景について紹介します。
▼キャリアアドバイザーの基本知識や具体的な仕事内容についてはこちらの記事でも総合的に解説しています。
人材紹介の仕事には国の許可が必要
キャリアアドバイザーを含む人材紹介の仕事には職業安定法の規定により国の許可が必要です。近年増加しているとされる人材紹介の業務委託ですが、その多くが許可を受けていない相手に委託していると考えられることから、違法の可能性が高いと指摘されています。
また、無許可による違反であること以外にも同じ職業安定法で禁止されている名義貸しが疑われる点、さらには労働基準法が禁止する中間搾取になりかねない点で問題のある行為です。無許可、名義貸し、中間搾取の3つの法律違反について、以下で詳しく解説します。
有料職業紹介事業の許可違反
キャリアアドバイザーの業務内容である職業紹介を無許可で行うと、職業安定法第30条の違反となる可能性があります。
人材紹介業を行うには厚生労働大臣の許可が必要
転職エージェントなどの人材紹介会社が行う事業は、法的には「有料職業紹介事業」とよばれるもので、以下に示す条文のとおり職業安定法(※1)第30条第1項の定めにより、厚生労働大臣の許可を受けなければサービスの提供ができません。いわば免許事業です。
“有料の職業紹介事業を行おうとする者は、厚生労働大臣の許可を受けなければならない。”
職業紹介の法的な定義は、同法第4条第1項に規定されています。
“この法律において「職業紹介」とは、求人及び求職の申込みを受け、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあつせんすることをいう。”
雇用関係の成立を斡旋する業務を無許可で行うと、同法第64条第1号により、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられるおそれがあるため注意が必要です。
業務委託先が許可を受けているか否かが問題
増加傾向にある業務委託については、委託先となるフリーランスなどの人が厚生労働大臣の許可を受けていれば問題ありません。しかし、委託元である転職エージェントが許可を取得していても、その効果は外部の人間には及ばないため、許可を受けていない人に委託すると違反となってしまいます。この場合、無許可営業の罪に問われるのは委託先であり、業務を委託する側の転職エージェントは関係ないように感じるかもしれません。しかし、無許可の相手に業務を委託する行為は様々なリスクを伴います。
転職エージェントのキャリアアドバイザーは問題なし
転職エージェントの従業員として働くキャリアアドバイザーは外部の委託先ではありません。会社が許可を受けており、管理者のもとで業務を行っている限り、自身で個別に許可を受けていなくても大丈夫です。あくまでも許可業者の従業員としての業務であることが前提となるため、会社と関係ないところで業務を行うには許可が必要になります。
名義貸しの禁止違反
業務委託契約を結ぶ場合に注意すべき問題は無許可営業だけではありません。禁止されている名義貸しにも注意が必要です。
許可業者の名義を他人は使えない
名義貸しとは、自身の名義を他人に使わせることをいいます。職業安定法第32条の10により名義貸しは禁止されており、許可業者の名義を無許可のフリーランスなどが使うことはできません。つまり、転職エージェントが無許可の委託先を使う場合、自身は無許可営業にあたらないとしても、名義貸しの疑いが生じてしまいます。条文は以下のとおりです。
”有料職業紹介事業者は、自己の名義をもつて、他人に有料の職業紹介事業を行わせてはならない。”
名義貸しの禁止違反となれば、同法第64条第3号により、1年以下の懲役または100万円以下の罰金を科される可能性があります。ちなみに、無料の職業紹介においても一部届出制になっているものを除き、許可が必要です。
名義貸しでなくても無許可のため違法
一般に名義貸しといえば、その多くは相手が何かをしたいために自分の名義を借りに来るケースが思い浮かぶでしょう。そのため、転職エージェント側から依頼するキャリアアドバイザー業務の委託は、イメージする名義貸しには該当しないのではないかとの考え方もあります。しかし、自分の名義を使わせるのであれば名義貸しです。また、仮に名義貸しの禁止違反に問われなかったとしても、無許可による違反まで否定されるわけではありません。いずれにしても違法の結論に変わりない点に注意が必要です。
中間搾取の排除違反
無許可による違反、名義貸しの禁止違反とリスクの大きい業務委託ですが、もう一点、中間搾取にも注意が必要です。
中間搾取とは
労働基準法第6条には以下に示す条文どおり中間搾取の排除が規定されています。中間搾取をひらたくいえばピンハネです。
“何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。”
この規定に違反した場合の罰則は、同法第118条第1項により、1年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
転職エージェント、キャリアアドバイザーの仕事は求職者と求人企業をマッチングさせるものであり、他人の就業に介入していると評価できます。有料職業紹介事業であるため業として行っていることは疑う余地がありません。利益を得ていることも明白であるといえます。
しかし、条文に法律に基づいて許される場合の外とあるように、厚生労働大臣の許可を受けている転職エージェントや従業員として管理者のもとで業務を行うキャリアアドバイザーは問題ありません。あくまでも業務委託の委託先が無許可である場合に問題が生じます。委託先のフリーランスなどが許可を受けていなければ、この規定に抵触し、罪に問われる可能性があるといえるでしょう。
業として行うということ
ところで「業として行う」とはどのように解釈するのでしょうか。様々な法律に「業として」と書かれていますが、業としての中身は反復継続することであるとされています。業者として看板を上げているとか、他人に認知されているとかいった事情は関係ありません。また、その時点では一回だけの行為であっても、反復継続が前提となっている、反復継続する意思が認められる場合は業に該当すると考えられます。
利益を得ていなくても無許可のため違法
中間搾取の禁止に関しては利益を得ることが問題となるため、無償なら問題になりません。しかし、そもそも無許可であることから、中間搾取の禁止違反にならないだけで、違法という結論になる点は変わりません。
キャリアアドバイザーの業務委託が増える背景
無許可営業や名義貸し、中間搾取といった懸念があるにもかかわらず、キャリアアドバイザー業務など転職エージェントの業務委託が増えているのはなぜなのか、その背景について解説します。
人件費などコストその他の負担を抑制したい転職エージェント
転職エージェントが業務委託を活用する大きな理由は人件費の抑制です。有料職業紹介事業には求職者対応を行うキャリアアドバイザーが欠かせません。売上・利益を上げるためにはキャリアアドバイザーとして優秀な人材を多数抱える必要があります。
しかし、キャリアアドバイザーは個々の経験や能力によって成果が大きく左右されるといわれる職種です。属人性の大きなキャリアアドバイザーを従業員として多数抱えても成果の保証がなく、人件費が増えてしまうことがネックになります。また、従業員が増えるとオフィスのスペースも広げなければなりません。リモートワークを導入するとしても、そのコストがかかります。
そこで利用されるのが成果報酬型の業務委託です。直接的にコストを抑えることができ、教育や労務管理のわずらわしさも回避できます。期待した成果が出なくても報酬が発生しないため無駄な出費がありません。雇用関係にあると簡単には解雇できませんが、業務委託ならもっと優秀な人材に委託したい、委託先を変更したいと考えたときの自由度が大きいといえます。
自由な働き方で稼ぎたい受託者
業務委託を受ける側にもメリットがあります。労働者とは異なり自由な働き方ができる点です。働き方改革やワークライフバランスといった言葉が浸透している現状では、多様な働き方が広まっているという背景があります。
転職エージェントに雇用されてキャリアアドバイザーとして働くとすれば、リモートワークは別にして、たとえば満員電車に揺られる通勤が待ち受けており、毎日朝から晩まで拘束され、上司の指示や会社の決まりにいちいちしたがわなければなりません。担当する求職者の数を自分で調整できればよいですが、会社から割り当てられれば何人でもサポートする必要があります。
また、求職者の都合に合わせて休日や夜間に対応しなければならないこともあるでしょう。その場合でも、予定が詰まっていれば翌日の勤務を休めないといったハードな状況が考えられます。それよりも自分の裁量で働く時間をコントロールでき、自由に稼ぎを増やせるフリーの仕事を求める人が増えているのが現状です。
フルタイムで働くことが難しい人でも活躍の場を持て、まとめて休みをとることもできます。結果としてWIN-WINの関係となっていることが、業務委託が増加傾向にある要因です。
業務委託でも違法にならないケースと注意点
ここまで3つの法律違反について見てきましたが、無許可の業務委託がすべて違法となるわけではありません。ここでは業務委託でも違法にならないケースと注意点を解説します。
フリーランスの紹介を業務委託しても違法ではない
職業安定法が禁止する無許可での職業紹介や名義貸しも、労働基準法の中間搾取の禁止も対象となるのは労働者の紹介、つまり雇用契約を結ぶ場合です。したがって、労働者ではない個人事業主・フリーランスの人材紹介を業務委託しても違法にはなりません。
フリーランスか労働者かは実態で判断する
フリーランスの人材紹介なら無許可の相手に業務委託しても問題はありませんが、フリーランスか労働者かの判断は表面的な契約ではなく実態で行う点に注意が必要です。フリーランスとは名ばかりで、会社の指揮命令を受け他の従業員と同様の採用形態、働き方をしていれば規制の対象となり得ます。
転職エージェントの従業員に関する注意点
転職エージェントに勤務するキャリアアドバイザーの仕事が違法とならないのは、先に述べたように許可を受けた事業者の従業員として管理者のもとで働いているためです。そこで注意したいのがフルコミッション=完全歩合制のスタッフを用いている場合で、従業員と呼べるのか、違法性があるか否かが問題となります。
従業員であれば最低賃金法の適用を受けるため、完全歩合制の場合は雇用契約ではなく業務委託契約や請負契約と考えられ、本人が許可を受けていない状態で業務を行えば違法です。従業員に歩合制を導入する場合は、最低賃金を下回らない基本給プラス歩合給とすることで、完全歩合制でなくなり違法性を回避できます。
迷ったら管轄の労働局や専門家に相談を
無許可営業や名義貸し、中間搾取が違法であることは間違いありませんが、個別具体的なケースで判断が難しいこともあるでしょう。たとえば、キャリアアドバイザーの仕事全般ではなく、主要ではない一部分だけを無許可のフリーランスなどに業務委託して、その後は転職エージェントが引き継ぐ場合は合法ではないのかといった考えもあります。
職業安定法が許可を必要としているのは、雇用関係の成立を斡旋することであり、どこからどこまでをその範囲に含めるかで話は変わってくるでしょう。とはいえ、個別事案についてはそれぞれ細かい状況を踏まえて判断する必要が生じるため、一概に違法だ合法だと断定することはできません。これからやろうとしている業務委託が違法になるのか迷う場合は、管轄の労働局や弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
キャリアアドバイザーの業務委託は違法となるため控えるのが無難
転職エージェントのキャリアアドバイザー業務を業務委託することで、委託側にも受託側にも大きな利益になっているようです。とはいえ、無許可のフリーランスなどに業務を委託することで、委託先の無許可営業だけでなく自社の名義貸しの問題まで生じます。さらには中間搾取の話まで出てくるように、職業紹介事業の業務委託は難しい問題を抱えているといえるでしょう。また、これまで指摘されたことがなかったとしても、違法ではないと断定はできません。違法行為がすべて早期に摘発、検挙されるわけではないためです。
業務委託のメリットが大きいとしても、違法性を問われたときのダメージを考えれば、許可を持っていない相手への業務委託は控えたほうが無難です。
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